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東京地方裁判所 昭和57年(ワ)6253号 判決 1985年1月29日

原告

東京計器労働組合

右代表者

大谷仁三

右訴訟代理人

田中和

西山鈴子

被告

日本労働組合総評議会

全国金属労働組合東京地方本部

右代表者

森野徳雄

右訴訟代理人

筒井信隆

嶋田喜久雄

筒井具子

主文

一  被告は、原告に対し、金五一〇万三二六〇円及びこれに対する昭和五六年四月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

一<証拠>を総合すると、次の各事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

1  株式会社東京計器(以下「東京計器」という。)は、子会社として第一東京計器株式会社、新東京計器株式会社及び東京ビッカース株式会社を擁していたところ、昭和五二年末ころ、右子会社三社を昭和五六年四月以降順次吸収合併する旨の方針を決定し、同年四月一日をもつてまず第一東京計器株式会社を合併することとなつた。

2  右の合併方針に対応して、東京計器の労働組合である支部組合(日本総評議会全国金属労働組合東京地方本部東京計器支部)と前記子会社三社の各労働組合は、一企業一労組の組織原則に基づき企業内単一組織を実現するため、昭和五四年一二月、各労組の執行委員長、副執行委員長及び書記長を構成員とする組織統一検討委員会を発足させ、組合統一のための準備作業に入つた。

3  ところで、前記各組合のうち、支部組合は全金に、第一東京計器労働組合及び東京ビッカース労働組合は全金同盟にそれぞれ加盟していたところ、このように各組合が加盟上部団体を異にすることが組合統一の障害となつたため、各組合はそれぞれの上部団体から脱退すべきことが前記組織統一検討委員会において確認された。

4  そこで、支部組合は、上部団体たる全金から脱退するための手続として、まず、組合名称を東京計器労働組合と変更すること、全金への個人加盟原則を廃棄し団体加盟とすること、組合員の上部団体への上訴権や上部団体に対する義務について定めた条項を削除することなどを内容とする組合規約の改訂を行うこととし(支部組合が従前全金への個人加盟原則を採用していたことは当事者間に争いがない。)支部組合執行委員会は、支部組合規約に従い、まず昭和五六年二月四日最高決議機関たる大会に次ぐ決議機関である委員会に対し右内容の規約改訂を提案し、同提案は同月一一日開催された第一七回委員会において賛成三七、反対一、保留一で可決された。

なお、支部組合規約によれば、支部組合における大会、委員会等のすべての会議は、構成員の三分の二以上の出席により成立し(同規約五二条)、議決権を有する出席構成員の可半数で決する(同規約五六条)旨定められていた。

そして、右規約改訂案は、同月一二日開催された大会(第一八七回臨時大会)において賛成多数で可決されたうえ、支部組合規約に従い同月一六日の組合員の直接無記名投票(有権者数一三一九名)に掛けられ、投票者総数一二二一名中一〇八八名の賛成をもつて可決され、組合名称の変更については、同月一九日その旨の登記を経た(大会及び組合員投票による右規約改訂の事実は当事者間に争いがない。)。

5  このように、支部組合は、規約の改訂によりその名称を現行の原告組合名に変更し、全金への加盟方式を個人加盟から団体加盟に改めたが、これに引き続いて、同月二六日開催された原告組合委員会は原告組合の全金からの脱退を決議し、右脱退の件は同月二七日開催の第一八八回臨時大会において賛成多数で可決され、さらに、原告組合規約に基づき同年三月二日に行われた組合員の直接無記名投票(有権者数一三一二名)によつても、投票者総数一二二七名中一一〇八名の賛成により支持された。

そして、原告組合執行委員長大谷仁三は、同月三日全金東京地方本部に赴き、全金及び地本宛の脱退届を提出して、原告組合の全金からの脱退を通告した。

6  一方、全金は、支部組合の全金からの脱退を阻止するため、同年一月末全金中央本部及び地本の役員から成る支部組合対策会議を設置して対応策を練り、同年二月九日、全金中央本部及び地本の連名の文書により支部組合に対し、同組合が行おうとしている規約改訂は全金組織の根幹に触れ容認し難いものであるから直ちに規約改訂手続を中止すべき旨の申入れを行い、また同月二五日には前記規約改訂を認めない旨及び全金からの脱退手続を中止すべき旨の申入れを行つた。

二被告は、全金は個人加盟を原則とする単一組織であるから、原告の主張するような組織としての脱退はあり得ない旨主張する。

1  たしかに、<証拠>によれば、全金は、当初組合連合体として発足したが、昭和二八年一〇月の第四回全国大会において従前の組合連合組織を排し個人加盟を原則とする単一組織に改める旨の組織改革案を採択し、全金規約及び地本規約のいずれにも個人加盟を原則とする旨の規定(全金規約二条、地本規約二条)を置いたことが認められ、また、支部組合が昭和二九年五月の臨時大会において個人加盟の原則を採り入れたことは当時者間に争いがなく、<証拠>によれば支部組合規約にも個人加盟を原則とする旨の規定(三条)が置かれたことが認められる。

しかしながら、全金及びその傘下組合が組織の基本的性格として個人加盟の原則を採用する旨を明らかにし、組合規約にその旨の規定を置いていることから、直ちに全金傘下組合の組合単位での組織的脱退はあり得ないとの結論を導き出すことはできず、このような組織的脱退が可能か否かについては、傘下組合の結成及び全金加盟の経緯、全金の組合規約における加入脱退に関する定め、傘下組合における組合員の加入脱退手続の実際、全金の組合員個人に対する支配関係、全金における決議等の意思決定の仕組み、傘下組合の組織体としての実質などに即して具体的に検討し、傘下組合について独立の労働組合としての独自性を肯認することができるか否かにより判断すべきものと考えられる。

2  そこで、右のような見地から、本件における原告組合の全金からの脱退の可否について検討するに、<証拠>を総合すると、次の各事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(一)  支部組合の前身たる東京計器本社工場労働組合は、昭和二四年一一月その名称を日本労働組合総同盟全国金属産業労働組合関東金属労働組合東京計器支部と変更し、昭和二五年五月九日法人格を取得した。

全金は、昭和二五年一〇月八日結成され、昭和二六年二月一〇日日本労働組合総評議会に加盟した。

前記関東金属労働組合東京計器支部は、昭和二六年六月八日の臨時大会の決議により全金に組合として加盟し、名称を日本労働組合総評議会全国金属労働組合関東金属労働組合東京計器支部と改めた。

(二)  全金規約の中には、中央執行委員の定数に関し、新規に加入組合のあつた場合について執行委員選出の基準を設け、組合単位による全金加盟のあり得ることを想定した規定(五八条)が存在し、また、地本規約も、全金への加入手続に関し、既存の組合の加入があり得ることを前提とした規定(五六条)を置いている。

(三)  全金規約及び地本規約においては、全金に加入しあるいは脱退する場合には、地本を経て全金中央執行委員長宛にその旨の申しいでをしなければならないとされ(全金規約六二条、六四条、地本規約五六条、五七条)、ただ、全金中央執行委員会あるいは地本執行委員会は加入脱退に関する権限の一部をそれぞれの下級機関に代行させることができるが、代行による権限行使の結果は最終的に全金中央執行委員会に報告して承認を得なければならないものとされている(全金規約六五条、地本規約五八条)。

しかしながら、東京計器と支部組合との間にはユニオン・ショップ協定が締結されているところ、右協定により支部組合に新加入組合員のある場合には、組合加入申込書が支部組合執行委員長宛に提出されるのみで、地本あるいは全金中央本部に対し加入申込書が提出されることはなく、また、支部組合からこれら上部団体に対し加入組合員のあつたことの報告もされていない。そして、支部組合から組合員が脱退する場合にも、加入の場合と同様、支部組合執行委員長宛に脱退届が提出されるのみであり、支部組合から上部団体への報告もされていない。

もつとも、地本傘下の他の支部においては、組合員の脱退に際し、前記規約の定めに従い、直接全金中央執行委員長宛に脱退届が提出され、あるいは脱退に関する権限の代行の結果が上部団体に報告された例も存在する。

(四)  支部組合所属の組合員の納入すべき組合費は、全金中央本部又は地本が各組合員から直接これを徴収することはなく、支部組合と東京計器との間の組合費のチェック・オフ協定に基づき、同会社が支部組合員の毎月の賃金から罷業基金積立金と合わせて組合費を控除し、これを一括して支部組合に引き渡していた。そして、支部組合は、右のように徴収した組合費の一部を毎月地本に上納していたが、右上納費算定の基礎となる組合員数は、支部組合員の実数とは一致せず、支部組合が地本への登録組合員数として独自に決定し地本に申告したものであつて、実数を大きく下回るものであつた。これを昭和五六年一月についてみると、当時支部組合には一三二四名の組合員が在籍していたが、支部組合から地本に対しては七五〇名の組合員数が登録され、右人数分の上納組合費が納入されたにすぎない。このように、全金への登録組合員数が在籍組合員実数を少なからず下回るという実情は、多数の組合員を擁する支部にあつては珍しいことではない。

(五)  全金は、前認定のとおり、昭和二八年一〇月の全国大会において個人加盟を原則とする単一組織に改める旨の組織改革案を採択したが、右組織改革を実質化させるための施策の一環として、昭和三四年一〇月の第一〇回全国大会において個々の全金組合員に対し組合員証を発行することを決定し、昭和三七年ころまでにこれを実施した。もつとも、その方法は、全金に登録された組合員数に応じた枚数の組合員証用紙を各支部に配布し、各支部において所属組合員に対し組合員証発行の手続を行うというものであつた。なお、全金による組合員個人に対する組合員証の発行は右の一回限りであり、その後は発行されたことがない。

(六)  全金規約によれば、全金中央執行委員会は大会又は中央委員会の決議によつて組合員に対し統制処分を行うことができるものとされ(同規約六六条)、この定めに基づき全金中央執行委員会が直接支部所属の組合員個人に対し統制処分を行つた事例がいくつか数えられる(もつとも、支部組合員が全金から直接統制処分を受けたことを認めるべき証拠はない。)。

(七)  全金中央本部には、決議機関として大会及び中央委員会が置かれている。全金の最高決議機関たる大会は代議員と役員により構成され、代議員は組合員の直接無記名投票により選出されることになつているが、その代議員数は全金に組合費を納入している組合員数すなわち前記の登録組合員数を基準に各地方本部単位に割り当てられ支部単位で選出の手続をとるものとされる。なお、支部所属の組合員個人の意見が全金中央本部の意思決定に直接反映されるような手続は用意されていない。

(八)  支部組合は、昭和二五年五月九日に法人格を取得した労働組合であつて、固有の規約を備え、同規約の定めに従い、決議機関として大会及び委員会を、執行機関として執行委員会を設置するとともに、各機関の運営に当たる役員を配置し、また独自の会計を保持しており、団体交渉等の組合活動については、全金からの指令に必ずしも拘束されることなく独自に決定した方針に基づいて行動し、東京計器との間で独自に各種の規約等を締結し、昭和五〇年ころより以降は、全金の統一ストライキ指令にもかかわらず支部組合はストライキを行つていない。

3  以上のように見てくると、全金が昭和二八年一〇月に採用した個人加盟による単一組織という原則は、これを実質化させるための試みが行われ、また、一部において右原則に沿う運用のされていることが認められるものの、被告の主張するように名実共に実現しているものとは到底認めることができず、一方支部組合は、その実質に照らし独自性のある労働組合として、全金組織の中に埋没し同化することなく存在するものと認められ、全金の個人加盟原則採用後も組織として全金に加盟していたものというべきである。

そうだとすると、支部組合は、自らの規約に従い所要の手続を経ることにより自主的にその意思を決定することができ、このように自らの意思により決定し得る事項には加盟している上部団体からの脱退も当然含まれるものというべきであるから、全金の個人加盟による単一組織としての性格上組合としての組織的脱退はあり得ないとの被告の主張は失当である。

三次に、被告は、原告組合員らによる前記支部組合規約の改訂は、全金規約や上部団体の指令等に違反し、改訂の内容も全金傘下の組合として改訂可能の限界を超えるものであり、少なくともこのような重要な規約改訂を上部団体の指導を受けることなく行うことは許されないから、無効であり、したがつて、この無効な規約改訂に引き続いて行われた全金脱退決議も無効である旨主張する。

しかしながら、支部組合の行つた前記規約改訂が上部団体の規約や指令等に違反する場合に、これを理由として上部団体から規約所定の統制権の行使を受けることがあり得ることは格別、右違反から直ちに規約改訂が無効となるものと解すべき根拠はなく、さらに、前認定の全金の実態及び支部組合の独自性に照らし、右規約改訂の内容が改訂可能の限界を超えるものとは認められず、また、このような規約改訂を上部団体の指導を受けることなく行うことが許されないものとも解されない。

被告の規約改訂の無効を前提とする全金脱退決議無効の主張も採用できない。

四以上によれば、原告組合は、前認定の脱退決議に基づく全金への脱退通告により、昭和五六年三月三日全金から組織として有効に脱退したものというべきである。

五被告は、本件罷業基金に対する権利義務を有しているのは、原告組合とは別に依然として存在している支部組合である旨主張するが、これまでの説示によれば、原告組合と支部組合が同一の組合であることは明らかであるから、本件罷業基金に対する権利義務は原告組合に帰属するものというべきである。

そして、<証拠>によれば、本件罷業金庫規定には、罷業基金の預入支部が脱退した場合には払戻請求手続を経て当該脱退組合に同基金払戻しをすべき旨定められている(同規定一四条)ことが認められるところ、本件罷業基金の金額が合計金五一〇万三二六〇円であること及び原告組合が全金に対し脱退の通告をした昭和五六年三月三日ころ被告組合に対し本件罷業基金の払戻しを請求したことは、いずれも当事者間に争いがないから、被告組合には、原告組合に対し本件罷業基金を払い戻すべき義務がある。

六よつて、被告に対し本件罷業基金五一〇万三二六〇円及びこれに対する弁済期の後の昭和五六年四月一日から支払すみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める本訴請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。 (大谷禎男)

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